タクシーで事故を起こしたら運転手が弁償する?

タクシー乗務中に事故を起こしても、運転手が相手への賠償金や車の修理代をすべて自腹で払うと決まっているわけではありません。

タクシー会社には、乗客や事故相手などに生じた損害を賠償するため、一定基準を満たす保険や共済による措置が求められています。

実際に「事故時の自己負担なし」と明記しているタクシー会社もあります。

一方で、事故によって会社が受けた損害について、運転手に故意や過失があれば、会社から一定の賠償を求められる可能性までなくなるわけではありません。

重要なのは、「事故=全額自己負担」でも「会社の車だから運転手は一切責任を負わない」でもないことです。

転職前には、事故時の自己負担、車両修理代、保険の扱いを会社ごとに確認しておきましょう。

事故の費用は4つに分けて考える

タクシー事故で発生するお金は、すべて同じ扱いではありません。

大きく分けると次のようになります。

事故で発生するもの主な確認先
乗客・歩行者などのけが自賠責保険・会社の保険や共済
相手車両などの物損会社の保険や共済
タクシー車両自体の修理車両保険・会社の事故負担制度
運転手自身のけが業務災害なら労災保険

特に注意したいのが、相手への賠償と、自分が運転していたタクシー車両の修理代は別だということです。

会社の保険内容や社内規定によって、運転手への負担の有無が変わります。

相手への賠償を最初から運転手個人だけで背負うわけではない

すべての自動車には自賠責保険・共済への加入が義務付けられています。

さらにタクシーなどの旅客自動車運送事業者には、事業用自動車の運行によって旅客などの生命・身体・財産に生じた損害を賠償するため、国が定める基準に適合した措置を講じることが求められています。

基準では、対人は被害者1人につき8,000万円以上、対物は1事故につき200万円以上を限度額とする保険・共済などが定められています。

実際には、それ以上の補償内容で契約している会社もあります。

また、従業員が仕事中に第三者へ損害を与えた場合には、民法上、会社側にも「使用者責任」が生じる場合があります。

したがって、乗務中に事故を起こした瞬間から、乗客の治療費や相手車両の修理代を運転手自身が直接すべて支払うという仕組みではありません。

タクシーそのものの修理代は会社によって差が出る

分かれやすいのが、事故で自社のタクシーを壊した場合です。

対人・対物の賠償措置と、自社車両の修理費用は同じものではありません。

会社が車両保険に加入している場合もあれば、会社自身で修理費を負担する場合もあります。

さらに、その費用を乗務員へ求めない会社もあります。

例えば日本交通は現在の採用情報で、全車両を対象に任意保険へ加入しており、事故による修理費などを社員負担にしないと案内しています。

日の丸交通も、事故や車両損傷があった場合の自己負担はないとしています。

愛知県のnewmo東海も、現在の求人で「事故時の自己負担0円」と明記しています。

一方、国際自動車の採用情報では、他社には修理費の一部を乗務員負担とする規定を設けている場合もあると説明しています。

つまり、「タクシー業界では事故代は必ず会社負担」という全国共通のルールがあるわけではありません。

会社選びで差が出る項目です。

会社から請求されたら必ず全額払うわけでもない

では、運転手の不注意で事故を起こした場合、会社から修理費を請求されたら全額払わなければならないのでしょうか。

これも一律ではありません。

労働者が故意や過失によって会社へ実際に損害を与えた場合、会社が損害賠償を請求できること自体は禁止されていません。

しかし、業務上発生した損害をいつでも全額労働者へ転嫁できるわけでもありません。

最高裁判所の「茨城石炭商事事件」では、会社の車を業務で運転していた従業員が事故を起こし、会社が相手への賠償や車両損害などを請求した事案について、会社から従業員への請求を損害額の4分の1までに制限しました。

これは「どんな事故でも運転手は4分の1だけ払えばよい」という判決ではありません。

事故の状況、従業員の過失、仕事の内容、労働条件、会社が事故防止や保険による損失分散をどの程度行っていたかなどを総合して判断するという考え方です。

そのため、

「運転手の過失だから修理費100%」

とも、

「業務中だから自己負担0円」

とも法律上一律には決まりません。

「事故1回につき○万円」と最初から決めるのは別問題

入社時に、

「事故を起こしたら一律10万円」

「修理代の20%は必ず乗務員負担」

などと書かれていたら、その内容も確認が必要です。

労働基準法では、労働契約に違反した場合の違約金や、損害賠償額をあらかじめ決めておくことを禁止しています。

実際に生じた損害について会社が後から請求することと、事故が起きる前から一定額を「弁償金」として決めておくことは同じではありません。

求人に「事故負担あり」としか書かれていない場合は、

「事故1回につき固定額なのか」

「実際の修理費を基準にするのか」

まで確認したほうがよいでしょう。

修理代を会社が勝手に給料から引けるとは限らない

もう一つ重要なのが給与からの天引きです。

会社が、

「今月事故を起こしたので修理代5万円を給料から引いておいた」

と自由にできるわけではありません。

労働基準法には賃金全額払いの原則があります。

厚生労働省も、労働者に実際の損害賠償責任が生じる場合があっても、それを理由に当然に給与から天引きできるものではないと説明しています。

そのため、

事故を起こした
↓
会社に損害が出た
↓
給料から自動的に全額天引き

とは考えないほうがよいでしょう。

事故後に高額な請求を受けた場合は、事故状況、就業規則、誓約書、保険・共済の内容、請求額の根拠を確認する必要があります。

故意・重大な過失があれば話は変わる

通常の業務中に起きた不注意による事故と、悪質な行為を伴う事故を同じようには考えられません。

例えば、

飲酒運転
無免許運転
故意に車を壊した
会社から禁止された危険な行為を意図的に行った

などがあれば、運転手側の責任が重く判断される可能性があります。

また、会社の保険で相手への賠償が行われたとしても、交通違反に伴う行政処分や刑事責任まで会社の保険が代わってくれるわけではありません。

日本交通でも、事故修理費については社員負担なしとする一方、交通違反の反則金は本人負担と案内しています。

「事故のお金」と「交通違反そのものの責任」は分けて考える必要があります。

運転手自身がけがをした場合は労災の対象になることがある

事故によってタクシー運転手自身がけがをすることもあります。

業務中の事故による負傷であれば、労災保険の対象になる可能性があります。

厚生労働省は、業務と負傷との間に相当な因果関係が認められれば、労災保険給付の対象になるとしています。

日の丸交通も採用FAQで、事故によって乗務員自身がけがをした場合は労災保険が適用されると案内しています。

相手への賠償だけでなく、自分が事故で働けなくなった場合の制度も確認しておくと安心です。

事故を起こしたらまず救護・警察・会社への連絡

実際に事故を起こした場合は、弁償金のことを考える前に初動対応が必要です。

道路交通法では、交通事故が発生した場合、運転者に車両を停止し、負傷者を救護し、道路上の危険を防止し、警察へ報告することを求めています。

タクシー乗務中なら、これに加えて会社の運行管理者などへ連絡します。

基本的には、

事故発生
↓
車を停止して安全確保
↓
負傷者がいれば救護・救急要請
↓
警察へ報告
↓
会社へ連絡

という流れです。

相手から、

「大した傷ではないから警察は呼ばなくていい」

と言われても、物損事故を含め警察への報告は必要です。

また、その場で自分の判断だけで賠償額を約束するのではなく、会社や保険会社の事故処理につなげることが重要です。

事故後は会社が対応してくれるかも会社選びになる

事故時の自己負担だけでなく、事故が起きた後に誰が対応してくれるのかも確認しておきたいところです。

日の丸交通では、事故時に運行管理者が乗務員に代わって対応すると案内しています。

日本交通にも事故処理を担当する運行管理者がおり、乗務員に代わって事故処理や相手方との交渉を行う体制が紹介されています。

事故直後に、

警察とのやり取り
保険会社への連絡
相手方への対応
車両の処理

をすべて新人運転手一人で行わなければならない会社より、事故担当者や運行管理者が対応する会社のほうが安心しやすいでしょう。

求人では「事故負担なし」の一言だけで終わらせない

求人に「事故負担なし」と書かれていれば、大きな安心材料です。

ただし、より確実にするなら内容まで確認してください。

確認すること会社へ聞く内容
相手への賠償会社の保険・共済で対応するか
自社車両修理代の乗務員負担はあるか
免責額保険の免責分を乗務員が負担するか
事故負担固定の事故負担金はあるか
給与事故代を給与から控除する制度があるか
サポート事故後の相手・保険会社対応を誰がするか
自分のけが労災手続を会社が案内するか

特に確認したいのは、

「自分に過失がある事故でも自己負担なしですか」

という点です。

もらい事故だけ自己負担なしなのか、自分に過失がある事故でも会社が負担するのかでは意味が違います。

事故が不安なら入社前に1つの質問で確認する

タクシーで事故を起こしても、運転手が損害の全額を必ず弁償するわけではありません。

乗客や事故相手への賠償に備えてタクシー会社には保険・共済などの損害賠償措置が求められており、事故時の自己負担をゼロとしている会社も実際にあります。

一方、自社タクシーの修理費や事故負担金については会社ごとの差があります。

また、運転手に過失があれば会社から損害賠償を求められる可能性はありますが、業務上の損害を当然にすべて運転手へ負担させられるわけではなく、会社からの請求範囲が制限された最高裁判例もあります。

転職前なら、候補の会社へ次のように聞いてください。

「乗務中に自分の過失で事故を起こした場合、相手への賠償とタクシーの修理代について、乗務員が自己負担する金額はありますか」

さらに、

「ある場合はいくらで、どの規程に書かれていますか」

まで確認します。

この回答を2~3社で比べれば、「事故補償あり」という曖昧な表示ではなく、実際に事故を起こしたとき自分がどこまで負担する会社なのかを判断できます。

出典

国土交通省|タクシー事業について

国土交通省|自賠責保険・共済ポータルサイト

e-Gov法令検索|民法

e-Gov法令検索|道路交通法

厚生労働省|不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?

厚生労働省|仕事上のミスを理由とする損害賠償

大阪労働局|よくあるご質問(賃金・退職金・賞与関係)

日本交通株式会社|採用FAQ

日の丸交通株式会社|採用情報

newmo東海株式会社|タクシードライバー募集