二種免許を会社負担で取ると退職時に返還が必要?

タクシー会社の「二種免許取得費用は会社負担」という求人には、一定期間勤務することを条件としているものがあります。

そのため、短期間で退職すると会社から費用の返還を求められる場合はあります。

ただし、「2年以内に辞めたら二種免許代を全額返すと書いてあるから、必ず払わなければならない」とは限りません。

労働基準法では、退職など労働契約の不履行について、あらかじめ違約金を決めたり損害賠償額を予定したりすることを禁止しています。

実際に、タクシー運転手の二種免許取得にかかった研修費について、一定期間内に退職した場合の返還特約を無効と判断した裁判例もあります。

一方で、研修や資格取得の内容、本人の自由意思、費用の性質などによっては返還が認められた裁判例もあります。

大切なのは、「会社負担」「○年以上勤務」という言葉だけではなく、二種免許費用がどのような契約になっているかを確認することです。

「2年以内に辞めたら返還」が必ず有効とは限らない

労働基準法第16条では、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めたりすることを禁止しています。

例えば、

「1年以内に退職したら罰金10万円」

という契約は認められません。

二種免許についても、形式上は「研修費用の返還」とされていても、実質的に、

「2年間辞めないためのペナルティ」

になっているのであれば、この規定との関係が問題になります。

したがって、

「会社が20万円払ったので、2年以内に辞めたら一律20万円返還」

という規定があったとしても、その記載だけで返還義務が確定するわけではありません。

二種免許費用の返還を認めなかったタクシー会社の裁判例がある

二種免許費用については、タクシー会社そのものを対象とした裁判例があります。

名古屋簡易裁判所の事件では、タクシー会社が新しく採用した乗務員に二種免許取得のための研修を受けさせていました。

契約では、一定の売上条件を達成した月が24か月に満たない状態で退職すると、研修費などを返還することになっていました。

しかし裁判所は、タクシー会社が乗務員として採用した人に二種免許を取得させることは、会社が営業を行ううえで必要なものであり、その研修費用は本来会社側が負担すべき費用だと判断しました。

そして、一定期間勤務しなければ返還義務を発生させる仕組みは、実質的に長期間の勤務を強制する違約金に当たるとして、労働基準法第16条に違反すると判断しています。

つまり、

「二種免許代を会社が出したのだから、短期退職なら当然返してもらえる」

という単純な話ではありません。

タクシー乗務に必須の二種免許を、会社が採用した未経験者に取得させたという事情も、判断材料になっています。

ただし「研修費は絶対に返さなくてよい」でもない

反対に、会社が負担した教育費や資格取得費用について、返還契約がすべて無効になるわけでもありません。

裁判では、

・その研修が業務上必須だったのか
・本人が自由に参加したのか
・会社ではなく本人自身にも広く役立つ教育だったのか
・実際に支出した費用だけを請求しているのか
・給与や通常の会社経費まで返還対象にしていないか
・勤務を強制するほど高額な負担になっていないか

などが問題になります。

別の裁判例では、本人が自ら応募した海外英会話研修について、会社が負担した旅費や学費などの返還が認められています。

この研修は通常業務に必須とはいえず、本人の能力開発という性質が強いと判断されたためです。

二種免許とは事情が違います。

したがって、

「研修費返還契約は違法だから全部払わなくていい」

とも言い切れません。

「会社負担」と「会社が立て替える」は意味が違う

求人を見るときに特に注意したいのが、費用の表現です。

例えば次のような書き方があります。

求人・契約の表現確認したいこと
二種免許取得費用を会社負担本当に会社の費用なのか
取得費用全額サポート退職時の条件があるか
取得費用貸付制度最初から本人の借金になるのか
○年以上勤務で返済免除貸付契約の内容はどうなっているか
○年以内退職で全額返還労基法16条との関係が問題にならないか

特に、

「会社が一旦立て替え、本人が会社から借りた形にして、2年間勤務すれば返済を免除する」

という仕組みの場合は、単純な会社負担とは異なります。

ただし、契約書を「貸付金」という名前にしただけで有効になるわけでもありません。

実態として退職を妨げるための違約金であれば、契約の名称ではなく実際の内容で判断されます。

実際のタクシー求人にも勤務期間条件がある

現在のタクシー会社の採用情報でも、二種免許取得費用を会社が負担しながら、一定の勤務期間を条件としている例があります。

例えば日本交通の新卒採用情報では、「二種免許取得費用は会社全額負担」としながら、「2年以上勤務」という条件も掲載されています。

つまり、求人で「全額会社負担」と書かれていても、

「入社翌月に退職しても一切請求されない」

という意味だとは限りません。

大和自動車交通のように、「会社全額負担」「会社規定あり」といった表記をしている会社もあります。

応募前には会社負担という言葉だけを見ず、その「会社規定」の中身まで確認する必要があります。

応募前に確認するなら「何年ですか?」だけでは足りない

二種免許取得支援を使う場合は、会社説明会や面接で次のように確認すると分かりやすくなります。

「二種免許取得費用について、入社後一定期間内に退職した場合の返還規定はありますか」

そのうえで、返還規定があるなら以下を確認します。

確認項目聞く内容
勤務期間何年間働けば返還不要になるか
返還額実際にいくらなのか
計算方法途中まで働けば減額されるか
対象費用教習所代だけか、研修費まで含むか
退職理由自己都合以外でも対象になるか
契約形式会社負担なのか貸付なのか
書面どの契約書・規程に書かれているか

特に「返還額」を確認してください。

「二種免許取得にかかった実費」とだけ言われても、教習所へ実際に支払った金額なのか、社内研修費や人件費まで含まれるのかで意味が変わります。

「2年未満なら全額」なのか「徐々に減る」のかも確認する

同じ2年間の条件でも内容は違います。

例えば、

入社1か月で退職しても20万円
1年11か月で退職しても20万円

という全額返還方式なのか、

勤務期間に応じて、

20万円
↓
15万円
↓
10万円
↓
5万円
↓
2年で0円

のように減っていくのかでも負担は大きく異なります。

返還規定そのものの有効性とは別に、転職前のリスクとして確認しておきたい部分です。

特に「最低2年間は絶対働くつもりだから大丈夫」と考えすぎないほうがよいでしょう。

仕事が合わない、家庭事情が変わる、体調面から乗務を続けられなくなるなど、入社時には予想できない理由で退職する可能性もあります。

退職時に請求されたら、その場で払うと決める必要はない

実際に退職しようとして、

「二種免許代を20万円返してください」

と会社から言われた場合は、まず返還の根拠を確認します。

確認するのは、

・入社時に署名した契約書
・誓約書
・費用貸付契約書
・就業規則
・二種免許取得支援制度の規程
・会社が実際に支払った費用の内訳

です。

会社から請求されたという事実だけで、法的な返還義務が確定しているわけではありません。

一方、自分で「労基法16条だから絶対払わない」と即断するのも避けたほうがよいでしょう。

契約の内容によって判断が変わるためです。

会社と意見が分かれたら総合労働相談コーナーで相談できる

二種免許費用の返還を求められ、会社と意見が食い違った場合は、一人で判断する必要はありません。

厚生労働省の総合労働相談コーナーでは、退職に伴う研修費用の返還をめぐるトラブルも相談対象とされています。

無料で相談でき、必要に応じて労働局による助言・指導やあっせん制度も案内されています。

相談するときは、

・雇用契約書
・誓約書
・二種免許取得支援の規程
・会社から届いた請求書
・求人票や採用ページ

を用意すると、契約内容を説明しやすくなります。

請求額が大きい場合や契約の有効性そのものが争いになる場合は、弁護士など法律の専門家への相談も選択肢になります。

二種免許取得支援は返還条件まで見て会社を選ぶ

会社負担で二種免許を取れる制度は、未経験からタクシー運転手になる人にとって大きなメリットです。

ただし、「無料」「全額会社負担」という表示だけで会社を決めないほうがよいでしょう。

一定期間内に退職すると返還を求める制度を設けている会社もあります。

一方、その返還規定が書面にあるからといって、必ず法的に有効になるわけでもありません。

実際にタクシー会社の二種免許研修費について、24か月以内の退職時に返還させる特約を労働基準法第16条違反として無効とした裁判例があります。

転職前なら、まず候補の会社に、

「二種免許取得費用について、早期退職した場合の返還規定を見せてもらえますか」

と確認してください。

そして「何年働く必要があるか」だけでなく、「返還する金額」「対象になる費用」「退職理由による違い」「勤務期間に応じて減額されるか」まで書面で確認してから入社を判断するのが安全です。

出典

厚生労働省|労働基準法

厚生労働省|人を雇うときのルール

厚生労働省|個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)

裁判所|平成15年(ハ)第3272号 貸金等請求事件

京都地方裁判所|平成13年(レ)第24号 旅行代金返還請求控訴事件

日本交通株式会社|募集要項