タクシー会社へ転職するときの健康診断では、血圧、血糖、肝機能、心電図、視力、聴力など、一般的な雇入れ時健康診断の項目を確認します。
ただし、タクシーは乗客を乗せて運転する仕事です。
そのため会社によっては、通常の健康診断に加えて、運転中の急な体調悪化や強い眠気につながる状態がないかを確認することがあります。
ここで注意したいのは、「健康診断で一つでも異常値が出たら不採用」という全国共通の基準はないことです。
一方で、実際に健康診断を選考過程へ組み込み、安全に乗務できる健康状態かを確認してから内定を出すタクシー会社もあります。
転職前には、健康診断の数値だけを心配するのではなく、「再検査になった場合どう扱われるか」「治療中でも乗務可能か」を応募先へ確認することが重要です。
タクシー会社の健康診断は一般的な雇入れ時健診が基本
常時使用する労働者を雇い入れる場合、会社には労働安全衛生規則に基づく雇入れ時健康診断があります。
法定の主な検査項目は次のとおりです。
| 検査 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 既往歴・業務歴 | これまでの病気や仕事内容 |
| 自覚症状・他覚症状 | 本人が感じる症状、医師が確認する状態 |
| 身長・体重・腹囲 | 身体計測 |
| 視力・聴力 | 見え方、聞こえ方 |
| 胸部エックス線 | 胸部の状態 |
| 血圧 | 血圧の状態 |
| 貧血検査 | 血色素量、赤血球数 |
| 肝機能検査 | AST、ALT、γ-GTなど |
| 血中脂質検査 | LDL・HDLコレステロール、中性脂肪 |
| 血糖検査 | 血糖の状態 |
| 尿検査 | 尿糖・尿たんぱく |
| 心電図 | 心臓の電気的な状態 |
「タクシー専用の特殊な健康診断」が最初から全国一律で用意されているわけではありません。
基本になるのは、一般の労働者にも行われる健康診断です。
ただし、タクシー会社が安全運転のため独自に確認や検査を追加することはあります。
雇入れ時健康診断は本来「採用試験」ではない
ここは誤解しやすい部分です。
労働安全衛生規則の雇入れ時健康診断は、本来、採用する人を健康状態だけで合否判定するための試験ではありません。
厚生労働省の労働局も、雇入れ時健康診断は適正配置や入職後の健康管理に役立てるためのものであり、採否を決定するために実施するものではないと説明しています。
そのため、
「雇入れ時健康診断が法律で決められている」
↓
「健康診断の数値で採用を決めることも法律で決められている」
という意味ではありません。
一方、タクシーは乗客を乗せて長時間運転する仕事です。
運転業務への適性を確認するうえで健康状態を確認する合理的な必要性がある場合は、会社が選考過程で健康状態を確認することがあります。
法定の雇入れ時健康診断と、会社が安全運転の観点から行う採用上の健康確認は分けて考えたほうがよいでしょう。
実際に健康診断を内定前に行うタクシー会社もある
健康診断を受けるタイミングは会社によって異なります。
実際に日本交通では、
応募
↓
面接
↓
健康診断
↓
内定
という採用の流れを案内しています。
健康診断については、深刻な病気を抱えていないか確認するとし、特に大きな疾患がない場合は採用への影響はないと説明しています。
つまりタクシー会社によっては、健康診断が形式的な入社後の手続ではなく、内定前の確認項目になっています。
ただし、すべてのタクシー会社が同じ順番、同じ判断基準というわけではありません。
異常値が一つあれば不採用になるわけではない
健康診断で、
血圧が高い
血糖値を指摘された
肝機能の数値が高い
心電図で再検査になった
というだけで、全国すべてのタクシー会社から不採用になるわけではありません。
重要になるのは、その結果が安全な運転へどの程度影響するかです。
国土交通省の事業用自動車運転者向け健康管理では、健康診断で異常所見などが見つかった場合、医師の診断や必要な検査を受け、その医師の意見を踏まえて就業上の措置を決める流れが示されています。
つまり、
異常値がある
↓
即乗務不可
だけではありません。
必要に応じて、
再検査
診察
治療
医師の意見確認
勤務内容の調整
などを行ったうえで判断します。
「血圧○○以上なら不採用」と全国一律には言えない
タクシー転職について検索すると、
「血圧が○○なら落ちる」
「血糖値が○○以上なら大手は無理」
といった情報が出てくることがあります。
しかし、タクシー会社共通の採用合格ラインとして、血圧や血糖値などに全国一律の数値が公開されているわけではありません。
会社独自の判断基準を設けている可能性はありますが、公開されていなければ外部から断定できません。
そのため、健康診断で以前に再検査を指摘されたことがある人は、インターネット上の「○○ならアウト」という数字で自分から応募を諦める必要はありません。
応募前に採用担当へ、
「現在治療中ですが応募できますか」
「健康診断で再検査になった場合は、再検査結果や医師の診断書を提出して判断してもらえますか」
と確認するほうが確実です。
タクシーで特に重要なのは運転中に急変しないこと
タクシー会社が健康状態を気にする理由は、健康診断の数値を良く見せること自体ではありません。
乗務中に安全な運転を続けられるかが重要だからです。
国土交通省は事業用自動車の運転者について、脳血管疾患、心臓疾患、睡眠時無呼吸症候群などの健康管理対策を用意しています。
運転中に急な意識障害などが起これば、本人だけでなく乗客や周囲の道路利用者にも影響します。
そのため、持病がある場合は、
病名があるかないか
だけではなく、
現在治療しているか
症状が安定しているか
運転へ影響する症状がないか
服薬によって強い眠気などが出ないか
という点も重要になります。
睡眠時無呼吸症候群の検査は法定健診とは別
タクシーの健康管理でよく出てくるのが睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで十分に眠れず、日中に強い眠気が出ることがあります。
長時間運転するタクシーでは、眠気は安全運転に直接関係します。
国土交通省も、自動車運送事業者向けに睡眠時無呼吸症候群対策マニュアルを用意し、早期発見のためのスクリーニング検査を推奨しています。
ただし、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングは、先ほどの法定雇入れ時健康診断11項目に最初から含まれているわけではありません。
実施するかどうかは会社の健康管理制度によります。
いびきや強い日中の眠気などがあり気になる場合は、応募する会社がどのような検査を行っているか確認するとよいでしょう。
視力検査と二種免許の深視力検査は別
健康診断と普通第二種免許の適性試験も混同しやすい部分です。
雇入れ時健康診断には視力検査があります。
一方、タクシーに必要な普通第二種免許では、免許取得時に別の適性試験があります。
第二種免許の視力基準は、
両眼で0.8以上
一眼それぞれ0.5以上
です。
さらに、奥行きを判断する「深視力」の検査があります。
2.5メートルの距離から3回検査し、平均誤差2センチメートル以下が基準です。
深視力は、法定の雇入れ時健康診断の検査項目ではありません。
つまり、
会社の健康診断
普通第二種免許の適性試験
は別です。
健康診断には問題がなくても、二種免許の適性試験を通過する必要があります。
持病があることだけで自分から応募を諦めない
現在通院している人や薬を飲んでいる人は、
「持病があるからタクシーは無理なのでは」
と心配するかもしれません。
しかし、病名だけを見て採用可否を一律に決めることはできません。
同じ病気でも、症状、治療状況、薬の内容、運転への影響は人によって違います。
国土交通省の健康管理の考え方でも、異常所見があれば医師の診断や意見を得て、就業上の措置を判断する流れになっています。
そのため自己判断で治療をやめたり、服薬を隠したりするのではなく、必要なら主治医や会社側へ確認することが重要です。
特に運転中の意識、眠気、判断力などへ影響する可能性がある場合は、仕事内容を伝えたうえで医師へ相談したほうがよいでしょう。
健康診断の結果を隠すのは避けたほうがいい
過去に健康診断で再検査を指摘された経験があると、
「黙っていたほうが採用されやすいのでは」
と考えるかもしれません。
しかし、タクシーは安全運転が前提の仕事です。
会社から既往歴、治療状況、服薬などについて業務上必要な範囲で確認された場合は、正確に伝えることが重要です。
特に現在治療しているものについては、
何の治療をしているのか
医師から運転について制限を受けていないか
薬による眠気などがないか
を自分でも確認しておいたほうがよいでしょう。
健康診断を「落とされないための試験」とだけ考えるより、安全に働ける状態を確認するものと考えたほうが実際の仕事にもつながります。
入社後も健康診断は続く
健康診断は採用時だけではありません。
常時使用される労働者には、原則として1年以内ごとに1回の定期健康診断があります。
さらに、深夜業などの特定業務に常時従事する労働者については、配置替えの際と6カ月以内ごとに1回の健康診断が必要です。
タクシーでも、夜間を含む勤務へ常時従事する場合はこの対象になります。
実際に年2回の健康診断を福利厚生として案内しているタクシー会社もあります。
つまり、入社時の健康診断を一度通過すれば終わりではありません。
長くタクシー運転手として働くなら、乗務を続けられる健康状態を維持することも仕事の一部になります。
健康面が気になるなら応募前に3点だけ確認する
過去の健康診断で何か指摘されたことがある人は、応募前に現在の結果を一度見直してください。
そのうえで応募予定の会社へ、次の3点を確認します。
「選考時にどの健康診断を受けますか」
「再検査になった場合、再検査結果や医師の診断を提出して判断してもらえますか」
「現在治療中でも、安全に乗務できる状態なら応募できますか」
会社独自の採用基準が公開されていない場合は、これが最も確実です。
まだ治療していない要再検査項目があるなら、採用試験のためだけではなく、自分の健康状態を確認する意味でも先に医療機関で確認しておく方法があります。
タクシー転職の健康診断では、一般的な雇入れ時健康診断を基本として、会社によって安全運転に必要な健康状態も確認されます。
一つの数値が悪いだけで全国一律に不採用になるわけではありません。
大切なのは、異常があるかどうかだけでなく、その状態が安全運転へ影響するのか、治療などによって適切に管理できているのかを確認することです。
出典
厚生労働省|労働安全衛生規則
厚生労働省|雇入れ時の健康診断(安衛則第43条)
大阪労働局|採用選考時の健康診断について
国土交通省|事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル
国土交通省|自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル
警視庁|適性試験の合格基準
日本交通株式会社|採用までの流れ
